こんにちは!ミユ(@miyuwinomics)です。
今回は、くらべるシリーズ第3弾!
お相手は、クラフトビールです。
なぜクラフトビールなのかというと、今週末が日比谷オクトーバーフェストだというのはまったくの偶然で、今回も日経新聞の記事がきっかけです。
昨年末の記事ですが、ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブが日本の有名クラフトビールメーカーに100億円規模の買収提案を持ちかけたというのです。
世界的に低調が続くビール市場がクラフトビールに勝機を見い出しているというわけですが、興味深いことに、ワインのビジネスモデルが引き合いに出されていたのです。
一部引用します。
”規模を追求する「メガブランド」が行き詰まり、味わいや地域性などの個性が特徴の「ワイン型」のビジネスモデルが潮流になりつつある。”
”ワインにはメガブランドは存在しない。ワイナリーの多様性が消費者から支持を受け続けている。”
日本経済新聞 2017年12月1日朝刊 企業1面
日本経済新聞 2017年12月1日朝刊 企業1面
要するに、クラフトビールのビジネス展開にワインのやり方が参考になる、つまり両者が似た性質を持つということを言っているわけです。
こりゃ比べるしかない!!!
というわけで、比べてみたいと思います!
はじめに:クラフトビールとは?
実は、酒税法などに基づくクラフトビールの定義は存在しません。
複数のビール関連の情報サイトによれば、次の2点に該当するビールが一般にクラフトビールとして認識されています。
- 小規模な醸造所で造られる
- 職人が造る、高品質なビール
日本におけるクラフトビールの始まりは、1994年の酒税法改正でビールの年間生産量が緩和されたことで多くの小規模事業者が新規参入し、地ビールブームが起こったあたりからでしょう。
ブームは一過性に終わりましたが、2000年代後半から小規模生産で品質を重視したクラフトビールが支持を集めるようになりました。
地ビールとクラフトビールの違いについても定義がないので、この記事では特に区別しません。
ビール市場の救世主?
ビール市場の低調続きは、日本でも例外ではありません。図は、1989年以降の国内酒類販売量を表したものです。
黄色がビール、ブルーがビール以外のアルコール。
ビールの販売量は1994年をピークに減少の一途をたどっていますが、ビール以外のアルコールは、対極をなすように90年代後半から急上昇しています。
背景としてよく言われるのが、若者のビール離れ。そこにワインやハイボールの消費者への定着も相まって、国内のビール業界は苦戦を強いられているのです。
若者を中心に人気を集めるクラフトビールは、そんなビール市場の救世主として注目され、国内ビール大手も近年続々とクラフトビールに参入しています。
大手が入ったらもうクラフトビールじゃなくない?
という話は一旦置いておいて、比べてみましょうー
比較1:市場規模
国税庁の直近3年分のデータで確認
図は、2013年〜2015年の地ビール(以下、クラフトビールと呼びます)と日本ワインの国内製造業者数と販売数量を表したものです。
黄色がクラフトビール、ブルーが日本ワインです。なお都合上、ワイン企業数は期限付免許者を除いています。
クラフトビールは企業数、販売数量ともに上昇、日本ワインは横這いという様子が直感的にもわかるかと思います。2015年にはクラフトビールの販売数量が日本ワインの2倍に及んでいます。
むむむ〜
日本ワイン、早くも敗北か・・・
ただし、過去の「くらべるシリーズ」でやった日本酒やウイスキーのようなケタ違いの負けではなく、比較的近しい市場規模と言ってよいでしょう・・・。
ちなみに、クラフトビールのデータで使った「地ビール等製造業の概況」は、国税庁が大手5社(アサヒビール、オリオンビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービール)を除く国内のビール・発泡酒製造業者を対象に年1回行う調査です。大手5社ともクラフトビールに参入していますが、その数字は含みません。この記事では「クラフトビール=小規模生産」の説を支持するので、気にしないことにします。
比較2:ビジネスモデル
ビジネスモデル。つまり、お金を儲ける仕組みです。
冒頭の引用にあった「ワイン型のビジネスモデル」が具体的に何を指すのかはわかりませんが、地域性や多様性を特徴とするワインのビジネスモデルの1つにワインツーリズムがあります。
ワインツーリズムは、ワインの産地を訪れ、ワインと共にその土地の風土や文化などを体験する旅のスタイルです。世界中のワイン産地でビジネスモデルとして定着していて、近年日本各地のワイン産地でも盛んになっています。
代表的なものでは、山梨県の「ワインツーリズムやまなし」、長野県の「北信濃ワインバレー列車」など。先週末は、山形県のワイナリー集積地・上山市と南陽市で「ワインツーリズムやまがた」が初開催されました。
地域性や多様性は、クラフトビールにも通ずる性質です。
醸造所見学などはすでに多くのクラフトビールメーカーが行っていますし、全国各地で開催されるクラフトビアフェスは今やすっかり夏の定番イベントですよね。
ビールの最も重要な原料は水と言われます。豊かな自然とクラフトビールを楽しむ「クラフトビアツーリズム」が、そのうち流行るかもしれません。
比較3:外部環境(法整備)
酒税法改正でビール市場に追い風?
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、2018年4月の酒税法改正で、ビールの定義が変わりました。麦芽使用比率の引き下げと、使用可能な副原料の緩和によって、ビールの範囲が広がったのです。
これを受けて、すでに大手を中心に新製品が続々とリリースされており、ビール市場の活性化が期待されています。
クラフトビールは、個性を引き出すために果実やハーブ、スパイスなどを副原料に使った製品も多く、これらは「発泡酒」として扱われていましたが、「ビール」を名乗れるようになりました。
もっとも、今回の改正がクラフトビール業界にプラスに働くのかどうかはまだわかりません。
定義が明確な日本ワイン
日本ワインは、国税庁によって「原料の果実に国内で収穫されたぶどうのみを使用し、国内で造られたワイン」と定義されていて*1、今年の10月30日からはラベルの表示基準が法律で規定されます。
一方ではじめに書いたように、クラフトビールには法に基づく定義がありません。
大手が参入???
じゃ、クラフトビールって大手のメジャーな製品と何が違うの?
と思ってしまうのです。
美味しければいいじゃん!
という意見もあるかもしれませんが、消費者にとってのわかりやすさや品質の向上、粗悪な業者の排除など、「定義される」ことのメリットも多いのです。
*1 国税庁「果実酒等の製法品質表示基準」から要約。
まとめ
今回は、クラフトビールと日本ワインを次の3つの視点で比べてみました。
- 市場規模 ・・・クラフトビールのほうが拡大傾向
- ビジネスモデル ・・・共通点あり。日本ワインが先行
- 外部環境(法整備) ・・・定義において日本ワインが先行
ビジネスモデルや環境面で日本ワインが先行するものの、数字を見るとクラフトビール(=中小ビールメーカー)のほうが勝る、という結果です。
良きライバル出現??
時間をおいて、また比べてみたいと思います。
過去の「くらべるシリーズ」の記事は、こちらから!
ではまたー
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