こんにちは!ミユ(@miyuwinomics)です。
2回にわたって、ワイン産業における多角化について書きたいと思います。
というか、書いていたら長くなってしまったので、2回に分けます。
多角化をごく簡単に言うと、
既存事業以外に進出して相乗効果で成長しよう!
という経営戦略のことです。
ワインの製造業者は大きく次の2つに分けることができ、後者が多角化の例です。
- 創業当初からワイン造りに専念している企業
- 異業種から参入してきた企業
前編の今回は、異業種から参入してきた企業をいくつかのパターンに分けてリストアップします。
多角化についてよくわからないという方も、後編で具体的な事例と一緒に説明しますので、今回は気にせずお読みください^ ^
日本ワインをより楽しむための小ネタとして、参考になれば幸いです。
酒類メーカーがワインに参入したケース
酒類メーカーが本業以外のアルコール類の製造に参入する例はよく聞きますが、ワインへの参入も多くみられます。ワインの生産規模は様々ですが、ざっと挙げてみました。
企業名 | 本業 | 創業年 | 本社 | ワイナリーorブランド | 参入時期 |
---|---|---|---|---|---|
笹一酒造 | 日本酒 | 1661 | 山梨県 | オリファンワイン | 1943 |
盛田酒造 | 日本酒 | 1665 | 愛知県 | シャンモリワイン(山梨) | 1974 |
浜田酒造 | 日本酒 | 1866 | 山形県 | シャトーモンサン | 1976 |
本坊酒造 | 焼酎 | 1872 | 鹿児島県 | マルスワイナリー(山梨) | 1960 |
高畠ワイナリー(山形) | 1991 | ||||
熊本ワイナリー(熊本) | 1999 | ||||
太田酒造 | 日本酒 | 1874 | 滋賀県 | 琵琶湖ワイナリー | 1959 |
サッポロビール | ビール | 1876 | 東京都 | グランポレール(山梨、岡山) | 1974 |
檜山酒造 | 日本酒 | 1884 | 茨城県 | 常陸ワイン | 1977 |
キリン | ビール | 1885 | 東京都 | メルシャン(山梨) | 2006 |
江井ヶ島酒造 | 日本酒 | 1888 | 兵庫県 | シャルマンワイン(山梨) | 1963 |
アサヒビール | ビール | 1889 | 東京都 | サントネージュワイン(山梨) | 1987 |
千代寿虎屋酒造 | 日本酒 | 1922 | 山形県 | 月山トラヤワイナリー | 1982 |
日本清酒 | 日本酒 | 1928 | 北海道 | 余市ワイン | 1974 |
三和酒類 | 日本酒・焼酎 | 1958 | 大分県 | 安心院葡萄酒工房 | 1971 |
雲海酒造 | 焼酎 | 1967 | 宮崎県 | 綾ワイナリー*1 | 1994 |
1960〜70年代にかけて全国各地で老舗メーカーがどっと参入しているようです。
日本では、1964年の東京オリンピックと1970年の大阪万博を機に欧州のワイン文化が一般に広まり、70年代初頭に第1次ワインブームが起こっています。ですので、この時期に参入が多いのには何だか説得力があります。詳しく調べていませんが、この時期に参入し、うまくいかずに撤退した企業もあるかもしれません。
またこのケースでは、企業は既にお酒を造る技術も販路も持っているので、ワインへの参入障壁が比較的低いと言えます。
このように、既存と同様の顧客をターゲットに新製品を投入するパターンを、水平型多角化といいます。詳しくは後編で説明します。
*1 2018.12.23追記:雲海酒造の綾ワインは、2018年9月28日から「雲海ワイン」にリニューアルされました(日本経済新聞 2018年8月31日朝刊 九州経済)。
あのアルコール大手がリストにないワケ
サッポロ、キリン、アサヒときたら入っていそうなあの大手企業。
そう。サントリーがリストにないのです。
サントリーというとウイスキーのイメージが強いですが、1899年にワイン造りで創業した企業です。その後大ヒットした「赤玉ポートワイン」で得た資金で、1923年にウイスキーの製造を開始したのでした。
つまり、同じ水平的多角化でも、上に挙げた企業とは逆方向(ワイン→他のお酒)の例になります。このため、リストに入っていません。
ワインの販売側がワイン製造に参入したケース
次は、ワインの販売や流通に関わる業者がワインの製造を始めたケースです。
企業名 | 本業 | 創業 | 本社 | ワイナリー | 参入時期 |
---|---|---|---|---|---|
木下インターナショナル | 酒類輸入販売 | 1969 | 東京都 | シャトー酒折ワイナリー(山梨) | 1991 |
パピーユ | 酒類販売 | 2006 | 大阪府 | 島之内フジマル醸造所(大阪) | 2013 |
清澄白河フジマル醸造所(東京) | 2015 |
手広くやっているのは、こちらの2社くらいかなと思います。
このように、既存製品の製造フェーズや流通フェーズに進出するパターンを、垂直型多角化といいます。こちらも詳しくは後編で。
関連性のある異業種からワインに参入したケース
続いて、お酒ではないけど技術やマーケティング面でワインと関連性がある業種から参入したケースです。
企業名 | 本業 | 創業年 | 本社 | ワイナリーorブランド | 参入時期 |
---|---|---|---|---|---|
キッコーマン | 食品製造販売 | 1917 | 千葉県 | マンズワイン(山梨、長野) | 1964 |
雪印乳業 | 食品製造販売 | 1925 | 東京都 | 雪印ベルフォーレ ※現在は撤退 | 1984 |
サンクゼール | 食品製造販売 | 1979 | 長野県 | サンクゼールワイナリー | 1988 |
キッコーマンと雪印(現在は撤退)は技術面、サンクゼールはマーケティング面の関連性があると考えます。いずれもユニークな例なので、次回個別に書きたいと思います。
このように、自社の中核技術やターゲット顧客に関連する事業に参入するパターンを、集中型多角化といいます。こちらも詳しくは後編で。
まったくの異業種からワインに参入したケース
最後は、ワインとほとんど関連性のない業種から参入したケースです。
企業名 | 本業 | 創業 | 本社 | ワイナリーorブランド | 参入時期 |
---|---|---|---|---|---|
樫山工業 | 真空機器製造 | 1946 | 長野県 | 安曇野ワイナリー | 2007 |
塩山製作所 | 半導体製造 | 1953 | 山梨県 | マグヴィスワイナリー | 2016 |
シャトレーゼHD | 菓子メーカー | 1954 | 山梨県 | シャトレーゼベルフォーレワイナリー | 2000 |
ジュン | アパレル | 1958 | 東京都 | シャトージュン(山梨) | 1979 |
シダックス | 外食産業 | 1959 | 東京都 | 中伊豆ワイナリー(静岡) | 2000 |
フジッコ | 食品製造 | 1960 | 兵庫県 | フジクレール(山梨) | 1963 |
意外な企業もありますでしょうか。
このケースも興味深いので次回個別に書きます。
このように、まったく異なる業種に進出するパターンを、コングロマリット型多角化といいます。くどいですが、こちらも詳しくは後編で。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
異業種からワイン製造に参入した企業をひたすら挙げてみましたが、抜け漏れがあったらすみません。
後編では、各章の最後にちょこっと書いた4つの多角化のパターンを説明しつつ、実際の事例をいくつか紹介したいと思います。
ではまたー
本記事で使用した企業の情報について
- 企業名は現在の社名と異なる場合があります。
- ワイナリーと本社の都道府県が異なる場合のみ、ワイナリーorブランド欄にカッコ書きしています。
- 参入時期は、各社のホームページ、または、山本博『新・日本のワイン』(早川書房、2013年)を参照しました。
- その他の企業データは、各社のホームページを参照しました。
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