こんにちは!ミユ(@miyuwinomics)です。
平成29年度税制改正で酒税法が改正され、2020年10月から酒税の税率が段階的に変更されます。
新聞報道などでもっぱら注目されているのはビール・発泡酒・新ジャンル(第3のビール)の税率の一本化ですが、ワインも対象になっています。
今回はこの酒税改革をサマリーしつつ、消費増税の影響も踏まえてワインの価格がどうなるのか整理してみたいと思います。
酒税改革で税額はどう変わる?
まずは主なお酒の現在の税額と、2020年10月から始まる段階的変更の内容を確認しておきましょう。比べやすいように、ビール1缶(350ml)あたりの税額に換算しています。
種類 | 品目 | 現在 | 経過措置期間 | 改正後 | |
---|---|---|---|---|---|
2019年6月 | 2020年10月 | 2023年10月 | 2026年10月 | ||
発泡性酒類 | ビール(基本税率) | 77円 | 70円 | 64円 | 55円 |
発泡酒(麦芽比率25〜50%) | 63円 | 59円 | 55円 | ||
発泡酒(麦芽比率25%未満) | 47円 | 47円 | 47円 | ||
新ジャンル | 28円 | 38円 | 47円 | ||
醸造酒類 | 基本税率 | 49円 | 42円 | 35円 | 35円 |
日本酒 | 42円 | 39円 | |||
ワイン | 28円 | 32円 | |||
蒸留酒類 | 焼酎(21度未満) | 77円 | |||
ウイスキー・ブランデー・スピリッツ(38度未満) | 130円 | ||||
混成酒類 | リキュールなど(21度未満) | 77円 | 70円 | 70円 | 70円 |
今回大きくテコ入れされたのは、発泡性酒類です。
発泡性酒類の現在の税額に注目してみると、品目によって大きく差があるのがわかるかと思います。改正後は350mlあたり55円に一本化され、麦芽比率25%未満の発泡酒や新ジャンルといったお手頃な価格で購入できる品目が増税となります。
蒸留酒類の税率は変更がありません。また、ややこしいので表に入れていませんが、低アルコール分の蒸留酒類やリキュールに適用されている特例税率も変更され、増税になります。税額は新ジャンルとほとんど同じです。
ワインの税率は日本酒と一本化
今回の改正で、日本酒やワインなどの醸造酒類の税率も一本化されます。
表にあるように、現在日本酒やワインには特別税率が適用されていて、醸造酒類の基本税率よりも低い税率になっています。特にワインの税率は他の品目と比べても低いです。
これが2段階を経て統一され、日本酒は減税、ワインは増税となります。
ワインボトル1本あたりの税額は?
ワインボトル1本=750mlとして換算すると、現在の税額は60円です。これが2020年10月に68円、2023年10月に75円となり、最終的にボトル1本あたり15円の増税となります。
ワインの価格については、後ほど整理します。
なぜ改正するのか?
改正の背景には色々あると思いますが、筆者の視点で2つ上げておきます。
1.税率格差をなくすため(特にビール系)
日本における酒類間の税率格差は、かなり前(昭和後期くらい)から国内外で問題視されていて、政府はたびたび法改正による格差縮小を図ってきました。今回、発泡性酒類(ビール系)と醸造酒類の税率格差が解消されることになります。
ビール系飲料の税率格差による酒税収入へ影響
バブル崩壊後、消費者の節約志向を背景にビールよりも税率が低く価格を抑えられる発泡酒が人気を博し、ビールの販売数は減少しました。ビール大手各社はその後、さらに税率の低い新ジャンルの商品を次々と市場へ投入し、ビール市場における新ジャンルのシェアは2005年の時点で約15%にまで伸びたのだそうです。*1
先日、2018年度の国の税収が過去最高に達したことが報じられましたが、酒税収入について言えば、1994年度の2.12兆円をピークに大幅に減少しています。
下の図は、平成に入ってからの酒税収入の変化を表したものです。ビールの税収減が酒税総額に大きく影響を与えていることがわかるかと思います。
税率格差によって新ジャンルのシェアが伸びたことが、酒税収入の減少に繋がってしまったのではないかということです。
また、ビール各社が新ジャンルの商品開発に多大な経営資源を投入することで、ビールの国際競争力の強化が阻まれているという指摘もあります。
改正後はビール系の価格差が縮まるため、発泡酒や新ジャンルに流れていた消費者がビールに回帰することが予想されます。といっても、新ジャンルは「プリン体カット」など機能面で人気を得ている商品も多いので、一気にシェアが減ることはないかなと思います。
ちなみに、ワインと日本酒の税率一本化は、双方のシェアにはほとんど影響を与えないと思います。「ワインが増税したから日本酒を飲もう!」とはならないでしょう。
というわけで、今回の改正によって酒税収入が増えるのかどうかはわかりません。
*1 キリンホームページ「酒・飲料の歴史」より
2.WHO勧告のへの対応
飲酒を原因とする死亡者数が世界中で増加しており、WHO(世界保健機関)が加盟各国にアルコールの有害使用を減らすための対策を促しています。
酒税の増税は飲酒量の抑制に繋がりますので、WHOに対して「ちゃんとやってますよー」というエクスキューズになります。
また、タバコと同じく社会的損失を生んでしまうアルコールの増税には手をつけやすいという側面もあります。
WHOの勧告についてはこちらの記事でどうぞ。
で、ワインの価格はどうなる?
最後に、実際のワインの販売価格はどうなるのか整理してみます。
ワインの価格に関係することと言えば、酒税の増税だけでなく、今年10月1日に消費税増税も控えています。ワインは軽減税率の対象外ですので、家で飲もうがお店で飲もうが、税率は10%になります。
これを踏まえ、ワインボトル1本あたりの価格が今後どう変わっていくのかを、課税前の価格を1000円として試算してみました。
現在 | 2019年10月 | 2020年10月 | 2023年10月 | |
---|---|---|---|---|
消費税率 | 8% | 10% | ||
課税前の価格 | 1000円 | |||
酒税 | 60円 | 60円 | 68円 | 75円 |
消費税* | 84円 | 106円 | 106円 | 107円 |
販売価格 | 1144円 | 1166円 | 1174円 | 1182円 |
*消費税は端数切り捨て。
ボトルあたり38円の値上げという結果です。
38円・・・どう取るかは人それぞれです。
一方で忘れてはならないのが、EPAなどの経済連携協定による輸入ワインの関税引き下げ。チリやオーストラリア、EUなど、関税が引き下げられている国のワインは、同じ条件であれば上の表の価格より安くなります。
日本ワインには値下がりのチャンスがなさそうです・・・。
ただ、そもそも安いとは言えない日本ワインにとって、38円の値上がりが市場に与える影響は少ないと思われます。
まとめ
いかがでしたか?
残念ながら日本ワインの価格は少し上がってしまいそうですが、変わらず楽しみたいですね。
今回の酒税改革で果たしてビールやワインの市場にどのような変化が起こるのか?はたまた酒税収入は増えるのか?数年後に確認してみたいと思います。
ではではー
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