こんにちは!ミユ(@miyuwinomics)です。
先日、『ワインと外交』という本を読みました。ワインの本というよりは、国際政治における饗宴にフォーカスした本で、とても興味深い内容でした。
饗宴で振舞われる食事やワインが外交的に意味を持つことは、あまり知られていないかもしれません。
また、近年日本における饗宴では日本ワインが使われるようになってきています。
そんなわけで、今回は本の紹介をしつつ、饗宴と日本ワインについて考えてみたいと思います。
『ワインと外交』プチレビュー
テーマは饗宴外交
饗宴外交。なんとなーく意味の想像はつくものの、聞きなれない言葉ですよね。
著者・西川恵さんによると、国際政治における饗宴は、単なる食事ではなく、政治的シグナルやメッセージが込められている外交の道具になり得ます。これを表す言葉が饗宴外交ということだと思いますが、辞書に載っていませんでした。西川さんの造語なのかもしません。
ちなみに西川さんは毎日新聞社元編集委員で、他にもサントリー学芸賞受賞作の『エリゼ宮の食卓』など、饗宴外交に関する著書を出されています。お名前から女性と勘違いしてしまいましたが、男性です。
饗宴に込められたメッセージ
饗宴と言われると、そういったものに縁がない私には、一流シェフによる料理と高級ワインが振舞われる華やかなパーティーという、恥ずかしいほどベタなイメージしか湧いてきません・・・。
しかし実際の饗宴は、それだけではありません。
会場の格式、招待客の数、提供される料理の品数や食材、ワインの銘柄やルーツなどを注意深く観察すると、ホスト国がゲスト国をどのように見ているのかが見えてくるのです。
ワインで言うと、ゲストに対するおもてなし度が高い饗宴では、次のようなワインが選ばれるようです。
- 高級なワイン(銘柄、ヴィンテージ)
- ゲスト国にゆかりのあるワイン
- 食事との相性が良いワイン
まあそうだろうという感じですかねー。
例えば、移民の多いアメリカ・ホワイトハウスの饗宴では、ゲスト国からの移民が米国内で造ったワインを振る舞うことが流儀となっているそうです。
小泉元首相が退任前最後に訪米した際、当時のブッシュ大統領夫妻は、ナパヴァレーの日本人女性が嫁いだワイナリーのワインで元首相をもてなしました。細かなリサーチと配慮でゲストへの敬意を表していることが窺えます。
これは良い例ですが、敢えて格の低いワインを選ぶような場合もあるわけです。
『ワインと外交』では、このような饗宴の裏側を覗くことができるエピソードが多数紹介されています。
登場するワインは、ボルドーやブルゴーニュの有名なものから、その土地ならではの銘柄まで様々ですが、そのワインが選ばれた背景など、ワイン好きに嬉しいうんちくが満載です。
国際政治に詳しくなくても、説明がわかりやすいのでさらっと読めます。
日本ワインと饗宴
2007年に発行された『ワインと外交』には、日本ワインは一切登場しません。ただし、前書きで西川さんは次のように述べています。
日本でも近い将来、今はフランスワインが出されている饗宴で、日本のワインが出されるようになると予測している。
これがこの後、現実になります。
コラム『日本ワインと外交』
石井もと子さんの『日本のワイナリーへ行こう』というムック本をご存知でしょうか?この2018年版に西川さんのコラムが載っています。
その名も『日本ワインと外交』。
コラムによると、第二次安倍政権以降、官邸による外国の賓客に対する食事会は「和食に日本ワイン」と決まっているそうです。和食の世界遺産登録やTPP交渉に伴い、日本の農産物の輸出を促進するためのPRが狙いです。それ以前からも、ワインに詳しい外交官などの声によって、外務省では在外公館における食事会で日本ワインを使うようになっていました。
伊勢志摩サミットはオール日本ワイン
過去に日本が開催地となった主要国首脳会談(サミット)でも、日本ワインが振舞われています。初登場したのは、2000年の九州・沖縄サミット。栃木県のココ・ファーム・ワイナリーのスパークリングワイン「NOVO」が使われ、話題になりました。
続く2008年の洞爺湖サミットではより多くの日本ワインが使われ、直近2016年の伊勢志摩サミットでは、食事会で提供されたすべてのワインが日本産となりました。
日本ワインが饗宴で使われることの意義
外交の道具としての役割はさておき、日本ワインが饗宴で使われることの意義には、国内向けと海外向け、2つの側面があると考えます。
1.国内での販促になる
誰もが知る外国の首脳をもてなしたワインとなれば、良い宣伝になります。
例えば、酒屋さんで買うワインを迷っているとき、陳列棚のPOPに
「伊勢志摩サミットで振る舞われたワイン!」
とか、
「〇〇大統領も飲んだワイン!!」
などと書かれている日本ワインがあったら、ちょっと興味がわきませんか?
生産者やぶどうの品種のことがよくわからなくても、「そんな重要な場に選ばれたのには、それなりの理由がある」と人は想像します。予算内であれば購入に至るでしょう。
行動経済学では、このように直感的な意思決定のプロセスをヒューリスティック(heuristic)といい、マーケティング戦略にも応用されています。
2.海外へのPRになる
海外では、そもそも日本でワインが生産されていることがあまり知られていません。
西川さんのコラムのくだりで触れたように、政府が饗宴で日本ワインを使う背景には、日本の農産物の輸出促進のためのPRという狙いもあります。G7の参加国といえば、フランスやイタリアをはじめとして世界有数のワイン産地を抱える面々です。それらの国に和食と日本ワインのマリアージュを紹介することは、大きな意味を持ちます。
といっても、自国の首相がサミットでどんなワインを飲んだのかなど一般の人はほとんど気にしませんし、マスコミがいちいち報道するとも思えません。海外へのPRという意味では、効果は限定的ではないかと思います。
まとめ
今回は、『ワインと外交』という本を紹介しつつ、日本ワインが饗宴に使われることの意義を考えてみました。
海外へのPR効果は限定的とは書きましたが、日本ワインが饗宴で使われるようになってからまだほんの十数年です。今後外交の道具として和食と共にどんどん活用されて、海外での認知度向上にも貢献していくことを期待しています。
今回ご紹介した本はこちら!
『日本のワイナリーに行こう 2018』では、過去に外国首脳たちに振る舞われた日本ワインが紹介されています。飲んでみたくなりますね!
ではまたー
参考リンク
九州・沖縄サミットと NOVO – ココ・ファーム・ワイナリー
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